- レポート
経営者インタビュー8:株式会社タイチ 代表取締役 徳弘多一郎 氏
経営者インタビュー8回目は、株式会社タイチの徳弘社長のところに伺いました。
御社について 創業年 業務内容 特徴など
平成30年7月10日に株式会社タイチとしてスタートしました。
創業は昭和34年です。元々は父が真珠養殖を真鯛の養殖に切り換えたのが始まりです。
株式会社タイチにしたのは、昨年2018年。ちょうど創業45周年、有限会社徳弘水産として30周年、鯛一郎くん15年というタイミングだったのがキッカケです。
私自身の経営者歴としては35歳の時に2代目の社長になりましたので、30年近く真鯛養殖の経営を行っています。
業務内容は、真鯛養殖です。
株式会社タイチのWebサイトの「真鯛養殖へのこだわり」より
- 皆様は、天然の牛を食べたことがありますか?天然の鶏はどうでしょう・・・。
天然のキャベツは・・・。 レタスは・・・。
よく考えてみると、みんな「栽培養殖」なのです。松坂牛も養殖された牛です。 養殖なのになぜあんなにみんなに愛されるのでしょうか? それは、生まれた時から人が手間ひまかけ「愛情」を注ぎ「丹精」を込めるからだと思うのです。米も種さえ蒔けばいいものが勝手に出来る訳ではありません。農家の方が汗水流しておいしい米を作り上げるのです。養殖魚も全く一緒だと思うのです。
稚魚の時から、それこそ「丹精」を込めて育てれば、松坂牛のように皆さまから愛していただける魚ができるはずだと思っているのです。苦労を惜しまず、魚と「対話」し、海の環境を守りながら安全で安心な飼料で育て上げました。
それが「鯛一郎クン」です。
一度、吟味し、ご評価いただければ幸いです。
従業員の人数構成は?
社員は8名です。年齢構成は50代が1名、40代が2名、30代が4名、20代が1名と若いメンバーが中心になってがんばっています。一番長い社員は11年。朝は6時に仕事が始まりますが、1日の労働時間は7時間、週42時間を目安に仕事をしてもらっています。
社長の経歴について
現在も会社のある場所で生まれ育ちました。
名古屋の建築系の大学に進学した年のゴールデンウィーク、帰省した実家で両親が、「子供3人の誰も家業を継いでくれないのだろうか。」という話をしているのを耳にし、当時大阪に進学していた兄と話しをして、自分が家業を手伝う事に決めました。
ですから、この場所を離れて過ごしたのは3か月ほど。18歳で大学を辞めて戻ってきて仕事を手伝うようになったのがキッカケです。
経営者になって取り組んだこと
社長になってから今まで、振り返ってみると3回ほど経営の危機がありました。原因は相場の暴落。養殖真鯛の生産過剰が主な原因でした。
そのようなこともあり、養殖真鯛の自社ブランドの確立を考えていました。
弊社のブランド「鯛一郎クン」を手掛けて17年目になります。思い起こしてみると、元々は父が養殖で作っていた真鯛は評判がよく、今でいうブランド鯛でした。父はよいエサで良い真鯛を作ることを一生懸命に行っていました。それを間近で見ていた自分も父のような市場に求められる鯛を作ろうと決心しました。父の時代はイカナゴやエビといった生のエサを使っていましたが、それを現代の配合飼料で実現できないかと思い、全国に技術者を探して歩きました。
信頼できる先生に巡り合い、その先生と開発した配合飼料の技術で鯛を養殖しています。多くの試行錯誤の後に開発した弊社の「鯛一郎クン」は、
- 刺身では味がよく、モチモチした触感は群を抜きます。
- 焼きもの、椀ものでも、くさみがなく深い味わいが楽しめます。
- 豊富な脂肪分ゆえ、粕漬けや味噌漬けには最適、ふっくらと仕上がります。
という点で市場での支持を得ております。
また、若いスタッフを中心に養殖の現場にも工夫をしており、餌は全て手で与えます。
自動での餌やりに比べると5倍の時間がかかりますが、手間を惜しまず丁寧に餌を与えることで、毎日の魚体のチェックもでき、健康管理ができます。
そして愛情をもって声掛けをしています。
毎朝、鯛一郎クンに「おはよう!」声をかけると集まって来ます。
言葉には言霊が宿るといわれており、「おはよう」「ありがとう」と鯛一郎クンに言葉をかけることで、私たちは常に愛情と感謝の気持ちを持って育てています。
採用や人材育成について
水産業として求人を出しても応募がないのが現状です。知り合いに声をかけたり紹介してもらったりして採用しています。海上での仕事は養殖いかだの上という事もあり、バランス感覚なども必要になります。朝も早いのですが、仕事をしやすい環境を作るように意識しています。
昨年、理念も新しく制定しましたので、今は理念の浸透ができるように毎月、自分たちの勉強会を行っています。言葉かけが大切なのは人の育成も同じと思い、否定することをせずに、お互いを認め合うことを意識し、テーマを決めて、それについて書いたり話したりすることを通して、想いを一つにしています。
今後のビジョン
以前に国連事務総長だったアナンさんのお話を聞いたことが印象に残っています。日本は人口減少が言われていますが、世界的には人口は爆発的に増えています。その人口をまかなうためのタンパク質が圧倒的に足りていません。
魚は優良なタンパク質です。養殖の技術を使えば、優良なタンパク質を安心、安全に供給することができます。「養殖」ということを後世に伝えていきたいと思っています。
また平成20年から鯛一郎クンのお便りを2か月に1回発行して、折々の情報や弊社の軌跡を関わった皆さんにお知らせしていましたが、今年から毎月のお便りとして「タイチトピックスワン」を発行していく予定です。お楽しみに!
インタビューを終えて
前回、経営者インタビュー7回目に登場してくださった本田さんのご紹介で、宇和島の株式会社タイチさんにお邪魔してきました。第一印象は、とにかく笑顔が印象的な徳弘社長。真鯛養殖に対する情熱、一緒に仕事をしている社員さん達への想いなどを伺いました。
写真でもご紹介した穏やかな宇和海沿いにある事務所で、人材不足と言われる水産業でも働く人を大切にしながら、そこで育てている真鯛への言葉かけも愛をもって行っている様子、養殖技術の持つ可能性を語って下さる徳弘社長に感銘を受けました。
インタビュー後、車で去る私に、素敵な奥様とお二人で、見えなくなるまで手を振って下さっている様子、バックミラーで見えていました。ほっこりと心温まる時間でした。ありがとうございました。